こんにちは。ASUKA GUEST HOUSE管理人のShoです。
前回に引き続き、ASUKA GUEST HOUSEのヘルパー第1号であるトモエさんが綴ってくれた日記の後編をお届けします。
奈良を楽しみながら徐々に仕事に慣れる
受付案内や金銭のやりとりはノータッチだが、お客様のお相手も業務に含まれる。しかし自分もここに来たばかりなので、宿のことや村の交通、観光について訊かれてもさっぱりワカラナイ。
焦るけども、一緒に調べて答えていくことは、自身の飛鳥探訪計画の参考になるので、あまり仕事という感じはない。
夜は賄いと配膳担当の地元スタッフがいることもあって、リビングでお客さんに混ざって本を読んだり、雑談したり。酒を飲みながらの接客となり、やはり仕事という感じはない。
配膳スタッフのひとり、吉野在住の通称バルちゃんは、英語とドイツ語、そして奈良関西弁を自在に操るスイス人で、気の遣い方が日本人より日本人らしい。
リビングでは、旅行や観光についてお客さん同士による土地の情報交換が活発に行われ、旅の感想と体験を語り合う。
ゲストハウスの特徴として、ひとり旅も多い。初対面の、そして明日には別々の道へと旅立ち二度と会わないであろう旅人たちは、まるで久しぶりに会った友人と話すように和気藹々と盛り上がり、気が合った相手とは連絡先を交換する。
毎晩が一期一会だ。
お客様に貴重な情報を教えてもらうことも多い。桜井市の大神神社では、4月の春大祭の最終日に能や狂言が催されると聞き、その朝は大急ぎで掃除を終わらせ、管理人のShoさんの車で大神神社に送ってもらった。
観世流の能を観る機会なんて絶対にめぐってこないと思っていたのに、ラッキーだった。
国際色豊かなゲストたち
ヘルパーになった初めの数日は、アジア人率が高かった。日本語の流暢な香港人、中国人や台湾人が多く、奈良や飛鳥の日本の歴史にも詳しい。
桜が咲き始めてから、ドイツ、フランス、スイス、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アメリカ、南アフリカ、モロッコといった欧米系のお客さんが急に増えだした。
日本語の話せない外国人、異国人同士の公用語は英語。というわけで、日本語教室になったり英語教室が始まったり。
南アフリカ出身のローリーさんは英語の先生で、スタッフとお客さんたちに日本人がつまづきやすい表現や文法、発音のレッスンまでしてくれるサービスぶり。
日本を縦横に歩き回ってきたという7人のポーランド人御一行様。巨大なバックパックを背負って真夜中に着いた彼らは、夫婦、恋人たち、姉妹といった、家族と友人たちのグループ旅行。
リーダーの方は麻酔医だそうで、日本語も上手だった。翌日は吉野、高野を目指して意気揚々と出発していった。
オランダから来た日本大好きで6回目の訪日というハンスさんは、7日間の滞在。日本語を熱心に勉強されていて、ひらがなカタカナ、漢字も少し読める。
村のあちこちで桜の季節をたっぷりと楽しみ、写真を撮り、日本人が行かないような史跡も巡り、吉野へも足を延ばして明日香周辺を堪能してくれた。
万葉記念館がお気に入りで、3回も通っていた。万葉和歌を諳んじたら、ボランティア館員を感心させられますよ、と持ち掛けたら是非教えてくれとノリノリで頼まれる。
故国を遠く離れて旅の空のハンスさんには、阿倍仲麻呂の歌を伝授。
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
ひらがなのメモを見ながら一生懸命練習し、滞在最終日には意気揚々と万葉記念館へと乗り込んでいった。見送りはすれ違ってしまったので、首尾は訊けなかったが、うまく詠めたのだろうか。
それから、明日香村でアルバイトをするために長期滞在していた関西大学考古学科院生のU君との出会いは、飛鳥の神様の差配としか思えない。彼は弥生時代が専攻らしいけども、高松塚古墳の発見者に師事したこともあるとかで、飛鳥時代にも詳しく、興味深い話や情報をいろいろ教えてもらう。
しかも週末の彼の休みには、私の興味と関心の方向ををしっかり理解してくれて、古墳巡りや斉明ツアーを企画してくれた。専門家の説明付きで飛鳥を廻るなんて、幸運すぎる。ヘルパーやって本当よかった。
さらに、石舞台桜並木の夜間ライトアップへと、スイス人の女性と香港人の青年、もうひとりの短期ヘルパーのK子ちゃんと4人でそぞろ歩きもした。
ちなみに側溝に蓋のない明日香村の道を夜歩くのは、注意が必要だということは、K子ちゃんが身をもって教えてくれた。あまり道の端は歩かないように。その夜は幅の広い方の側溝に落ちたお客さんもいたらしく、ずぶぬれでお帰りになった。どちらも怪我がなかったのは本当に幸運だったと思う。
やがて桜のシーズンが終わると、日本人率が上がりだし、女性のひとり旅が増える。
とはいえ、客層が変わっても、リビングの話題は変わらない。情報交換や飛鳥歴史探訪、景観や景色の名所について、そしてこれまで訪れた旅先の思い出話に花が咲く。
1ヶ月の滞在を振り返って
明日香村に1ヶ月滞在したものの、目的である歴史探訪と観光の達成度はというと、せいぜい50%かなというところ。
なんせ博物館や資料館が明日香村だけで7館。なかでも万葉文化館は1日では足りない規模と展示量。併設の図書館の蔵書も半端ない数の書籍や資料がぎっしり。雨の日にゆっくり見ようと思っていたものの、ハンスさんみたいに数日かけて通わないと、常設展も資料も、とても制覇できない充実ぶりだった。
そして住宅街の道が狭く、古墳や史跡、遺構がぎっしりと凝縮されている明日香村の探索は、車より徒歩か自転車が効率的なのだが、それは同時に連日の筋肉痛との終わりなき闘いだったりする。
さらに近辺の奈良市や橿原神宮とその周辺、葛城や桜井市などの史跡や神社仏閣、博物館の誘惑も捨てがたいのに、甘橿の丘から夕陽を眺めたり、ただぼんやりと飛鳥川の満開の花桃や桜の並木を眺めつつそぞろ歩くだけでも、満たされてしまう。
ちなみに、桜の季節といえば、明日香村からは吉野山も日帰りできる距離だ。この時機に長期で滞在するのなら、4月上旬は下千本、中千本、中旬は上千本と、吉野通いなんて贅沢もできてしまう。
実際、まだ開業1年目で知名度の低いASUKA GUEST HOUSEにお泊まりになるお客様は、春休みと桜でハイシーズンのこの時機、吉野はもちろん京都奈良、橿原でも宿が取れず、明日香村でようやく宿がとれた、という人が多い。
そして飛鳥についてはよく知らずに訪れ、とりあえず1泊したのでついでにちらっと石舞台などを訪れて、飛鳥の景観の美しさと歴史遺産の豊かさに驚かれる。
そして、日本人のお客様も外国からの旅人も、必ずこうおっしゃる。
「飛鳥がこんな素敵なところだって、知らなかった。また訪れて、ここに泊まって、ゆっくりとあちこち見て回りたいです。」
私もまた帰ってきて、今回は回り切れなかった飛鳥の名所と穴場を征服しなくては……。そのときはまたヘルパーをさせてください。
私の一番のお気に入りは、明日香村のちょっと外にある、多武峰の談山神社だったりしますが。
紅葉の季節がお勧めらしいので、次は秋に訪れたいです。