記憶がアルコールに溶かされ、やがて儚く消えてゆく
ここ数年、お酒を飲んで記憶をなくすことが増えた。
もともとお酒は大好きなので、飲みすぎて酔い潰れて記憶がなくなるということは昔からあった。
ところが近頃では、ふつうに飲んでいたはずなのにまったく何も覚えていないことがよくあるのだ。
そのせいで気まずい思いをすることも多い。
とあるゲストハウスに泊まっていたとき、見知らぬ人が親しげに声をかけてきたので「誰だこいつ」と思いながら話を聞いていたら、前の晩に一緒に飲んでいたゲストだったこともあった。
改めて名前を聞くこともできなかったので、今をもって誰だあいつ状態だ。
家でひとりで飲んでいても記憶をなくす。
酒のお供がインターネットなのでYouTubeにもお世話になっているが、翌日、再生履歴に観た記憶のない動画が並んでいたりするのは虚しい。昨日もそうだった。
ていうかレッチリ→まっくら森の歌→マキシマムザホルモンってどんな流れだよ。情緒不安定なのか。大丈夫か。
ついこの前も、数週間前の飲み会ぶりに会った人に「この前はだいぶ楽しそうでしたね!」みたいなことを言われてドキっとした。
だいぶ楽しそうでしたねと言われるからには相応に盛り上がったのだろうが、そんな瞬間があったのか、覚えてないのだ。
楽しい飲み会だったのは間違いないが、具体的にどう楽しかったのかは聞かれても思い出せない。そういえば後半のほうの記憶が全然ない。
めんどうな酔っ払いになっていたら申し訳ないなと思いながら、「そのときの俺、どんな感じでしたか?」と恐る恐る聞いてみたら、
「『16ビート!』と言いながら自分の頭をポコポコ叩いてラルクのDriver’s highを演奏してました。」
とのことだった。
ははあ〜なるほど。
なんだそれ。
頭を叩いての演奏ということは、ドラムの部分を再現していたのだろうか。16ビートということは、細かめの拍を刻んでいたのだろうか。歌も付けていたのだろうか。わからない。
そもそもなぜDriver’s highなんだ。
銀のメタリックハートが熱くなったのか。アドレナリンずっと流してオーバーヒートしそうだったのか。地平線に届くように限界まで振り切ってしまったのか。
まあいい。思い出せないものはしょうがない。
それよりなにより重要なのは、それがウケていたかどうかだ。
「カッコいい」よりも「おもしろい」と言われたほうが嬉しいタイプの人間なので、たとえまったく記憶になくとも、笑いを取れていたのならそれで満足だ。
正直なところ、坊主頭をペチペチ叩いてビートを刻みながら「地平せ〜んに〜♪ と〜どく〜よう〜に〜♪」と歌っている自分を想像すると、ちょっと面白い。
うむ、このギャグでみんなを笑わせていた可能性は大いにある。
というか、薄ぼんやりとそんな記憶が蘇ってきた気さえした。
……。
あれ……?
もしかしてこれ、めっちゃウケてたのではないか……?
そう思って「ちなみにそれ、ウケてましたか?」と聞いたら、
「隅でひとりでやってました。」
だってさ。
来世でまた会おう Yeah!