以前「“ゲストハウスがない場所に行けない病”に罹っている」という日記を書きました。旅先として魅力的な土地でもその町にゲストハウスがないと訪れる気にならない、という内容です。
その例として京都府の伊根町を挙げたのですが、ひげむぅライターのアキラがそれに対して「伊根に行きたいなら宮津のハチハウスに泊まればいいのに。」と反応してくれました。
なるほど確かに伊根にゲストハウスはないけれど、隣町の宮津市にはハチハウスというゲストハウスがあるし、伊根行きのバスも通っていて距離も近い。そうと分かれば話は早いので、日記を書いた翌々週にさっそく泊まってきました!
そんなわけで今回はハチハウスを紹介するのですが、実を言うと泊まったのは1年前。おぼろげになりつつある記憶を掘り起こしながら綴っていくので、よろしくお付き合いください。
バスに揺られて10時間、宮津の町に到着
東京から宮津へのアクセスはちょっと大変で、新幹線と在来線を乗り継いで5時間かかります。朝一の新幹線に乗れば昼前に着きますが、夜型生活の僕には不可能な芸当なので、夜行バスに乗って朝から宮津を楽しむプランにしました。
ということで朝8時過ぎに宮津駅に到着。10時間のバス移動で体はバッキバキです。この時間でもハチハウスで荷物を預かってもらえるそうなので、まずはハチハウスを目指しましょう。
駅前の通りには鉄筋のビルも目につきましたが、ハチハウスに近づくにつれて道幅は細く、建物は木造になり、人々の暮らしぶりが見えるような生活感のある風景へと変わってきました。
伝統的な建物が並んでいるとかではありませんが、どこか懐かしさを覚え、じんわり「なんか良いなあ」と思ってしまう町並みです。というかボキャブラリーが無さすぎて「なんか良い」としか言えない。
小路の奥に小さな社があったりして、路地裏散策好きの僕としてはかなりグッと来ています。宮津、なんか良いぞ……!
ハチハウスに着く頃に連絡してほしいとオーナーに頼まれていたので、ぼちぼちというタイミングで電話をかけました。
カズヤ:もしもし。あっ、荷物のことをお願いしていた西田です。
オーナー:ああ! 疲れましたか?
カズヤ:そうですね、やっぱ夜行バスは疲れます。宿にはもう着きますよ。
オーナー:…………。わかりました、お待ちしていますね!
大体こんなやりとりだったのですが、電話を切った後にふと「なんで俺が疲れてると思ったんだ?」と不思議になり、すぐに「疲れましたか?」ではなく「着かれましたか?」だったことに気が付きました。
誰も俺の体調なんて心配してなかった! 恥ずかしい!
そんなディスコミュニケーションに気付いていたのかはわかりませんが、オーナーのナナさんは笑顔で迎えてくれました。
17時のチェックインまでかなり時間があるので、それまでは天橋立を散歩したり温泉に入ったり海鮮料理屋で飲んだりして宮津の町を堪能。
夜行バスでの移動は体力的に辛いですが、それさえ耐えられれば朝からあちこち回れるので、時間の有効活用という点においては優秀な選択肢ですね!
バイク倉庫を改装した、スナック併設のゲストハウス
さて、チェックインの時間になったのでハチハウスまで戻ってきました。
京都府北部、日本海に面した宮津市にあるハチハウスは、オーナーのナナさんの実家が営んでいるバイク屋のガレージをリフォームしたゲストハウスです。
表から見るとガレージだった頃の名残がありますが、
中はきれいに改装されていてバイク倉庫の面影は皆無。すっかり素敵なゲストハウスに生まれ変わっています。
水回りの清潔感もばっちり。
地元の人が集まれる場でもありたいという想いから、館内の一角を使って「女王蜂」というスナックも営業しています。
ゲストには観光だけでなく地域の人々との交流も楽しんでもらって、宮津で暮らすおもしろい人たちのことを知ってほしいと話すナナさん。まさにこのスナックが宮津の人とゲストとの繋がりが生まれる場所なんですね!
ただこの日はスナックがお休みだったので、他のゲストたちとリビングでお喋り。自転車旅途中のチャリダーさんや、鉄道会社のインターンで宮津に来ていた学生さんがいました。
地域とゲストを繋ぐ、ナナさんの“巻き込み力”
その夜ナナさんから、「町内で開催するイベントに向けた集まりが今からあるんだけど、カズヤさんも一緒に来ませんか?」というお誘いを受けました。
そんな場に僕が行っていいものかと思いましたが、「うちは巻き込み型のゲストハウスで、よくゲストを連れて町の集まりとかに行くんですよ。」とのこと。なるほど、スナックは休みでも、ゲストを外に連れ出すことで地域と繋げてくれるのか!
ならばお言葉に甘えてぐるんと巻き込まれてしまいましょう。ひとり旅の楽しみのひとつは現地の人たちとの触れ合いなので、こういうお誘いは嬉しいのです。
そうして案内してもらったのは、お洒落に改装された築100年の長屋。お昼はカフェとして営業している建物なんだそうです。
まちづくり事業をしている人や老舗酒造会社の人などが集まっていて、いきなり現れた僕のことも快く迎え入れてくれました。普段からナナさんがゲストをあちこち連れて行くおかげで皆さんも慣れているのかもしれません。
美味しい料理とお酒もたくさん用意されていて至れり尽くせり! 最初の方こそイベントについての話し合いをしていましたが、途中からは完全にふつうの飲み会になっていました。
そんな飲み会の後も、
ナナさんの案内による宮津散策は続き、
行き着いたのは小さな飲み屋。
奥のふたりは先客ですが、ナナさんとは顔見知りらしく、店に入るなり親しげに話し始めました。小さな町だとあちこちで知り合いに出くわすから楽しいですね!
なんだか今夜は宮津のちょっと深い部分まで入り込めた気がして、単なる観光とは違った思い出ができました。
念願の伊根にて、食あたりでダウン
そんな宮津滞在の2日目ですが、朝目を覚ますと、体がだるいというか頭が痛いというか、風邪のひき始めのような感覚がありました。
体を動かすのも億劫でしたが、今日は旅の目当てである伊根に行く予定。どうにか支度を済ませ、大きな荷物だけ預けてハチハウスをチェックアウトし、伊根に向かいました。
幸い、いざ動き始めると体のだるさも徐々に薄れ、「伊根の舟屋」の明媚な風景にも心を動かされ、体調のことは気にならなくなりました。
ちなみに舟屋とは一階が船着き場、二階が住居スペースになっている建物のことで、伊根湾沿岸を囲む舟屋群には昔ながらの漁村の暮らしの面影が残っています。
重要伝統的建造物群保存地区に指定され古い建物が多く残るこの一帯には、潮風香る港町の風情も相まって、いわゆる京都的な古い町並みとはまた違った独特の雰囲気が漂います。
伊根湾を巡る遊覧船に乗れば舟屋群を海側から間近で見られますが、船にピタッと付いてくる鳥たちが可愛くてそっちの写真ばかり撮っていました。
と、しばらく伊根を楽しんだ頃、忘れていた体のだるさが戻ってきました。だるさだけでなく、30℃を超す気温のなかで寒気すら感じています。風邪の症状が本格化したのか炎天下で熱中症を起こしたのか、いずれにせよマズい状態だ……。
伊根観光はひとしきり終えたので宮津へ戻るバスに乗りましたが、車中でも容態は悪化し、宮津に着く頃には意識も朦朧とし始め、さらには腹痛まで襲ってきました。
この時点で風邪ではないと判断し、そのあと駆け込んだトイレで出した便の状態から、食中毒ではないかと推測。
おそらくは昨日ハチハウスのチェックイン前に海鮮料理屋で食べた生ものが犯人でしょう。バスの長時間移動などで溜まった疲労により体の免疫力が下がっていたのだと思います。
とりあえずハチハウスに預けた荷物を回収し、ナナさんに事情を話すと、ちょうどゲストたちを連れて外出するタイミングだったので、そのあいだリビングで休ませてもらうことになりました。
ぐったりとソファに横たわる僕を見て「大丈夫かい?かわいそうにねえ……。」と心配そうにするナナさん。なんだか幼い頃に風邪の看病してくれた母親を思い出しました。
しばらく経ってみんなが帰ってきた頃には症状も落ち着いていたので、リビングでまったりお茶を飲みながら「鳥人間コンテスト」を見て、ナナさんにおすすめしてもらった洋食屋さんで夕飯を食べてから夜行バスに乗り、無事東京に帰りました。
ハチハウスで休ませてもらえていなかったら一体どうなっていたんだろう……。
町ごと好きにさせてくれるゲストハウスでした
どうでもいい食あたりの話で後半を占めてしまいましたが、改めてハチハウスの魅力を振り返ると、それはやっぱりゲストと地域の人を繋げてくれるナナさんの存在です。
暇さえあれば旅行している僕ですが、あちこち訪れたなかで「あー楽しかった」で終わる場所もあれば「また来たいなあ」と思える場所もあります。その差がどこでつくのかといえば、人との関わりが生まれたかどうかなんですよね。
観光だけが目的なら一度行けば満足ですが、そこで暮らす人たちとの繋がりができてしまえば「久しぶりに会いたいな」「元気にしてるかな」という気持ちが湧いてきて、「また遊びに行こう」と思うのです。
ナナさんも「ゲストの滞在はたった数日だけど、地域の人と関わりを持つことで、そのひとときだけでも町の一員になったような気持ちになってもらいたい」と話していました。
食あたりというアクシデントに見舞われましたが、今となってはそれも良い思い出。はるか彼方の地に、またひとつ大好きな町ができました。